雨のち晴れ

子育て・考えたことやたわいのない日常を綴った日記です

おもひでぽろぽろ~マコちゃん事件~


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昔の文集を読んだ事で小6の時の事を思い出した。

 

クラスにマコちゃんという男子がいた。マコちゃんは、今思えば発達障害か何かだったのだと思う。あまり人とコミュニケーションがとれない、おっとりした子だった。勉強も運動もダメだったけれど、絵がとても上手だった。

 

先生はマコちゃんがこんな風になってしまったのは、マコちゃんが赤ちゃんの時、お店の仕事が忙しくて、お母さんがマコちゃんをゆりかごに入れっぱなしにしたせいだと言った。昔の先生は平気でこういうとんでもない事を言っていた。

 

いつの頃か私の席はいつもマコちゃんの隣で、席替えをしても廊下寄りの1番前の席にされていた。それで私はなんとなくマコちゃんのお世話係のようになっていた。

 

マコちゃんの後ろの席には秀才のキムラ君がいた。皆にキムラと呼ばれていた。キムラは当時としては珍しく、中学受験をして都内の有名私立中学校を目指していた。理屈っぽくて、帰りの会ではいつも誰かをチクっているような奴だった。

 

ある時、キムラが言った。

「おまえ、知ってる?オレたちこのクラスのお荷物班だってこと」

「知らない。なんで?」

「先生から嫌われてる奴の寄せ集めってこと」

 

私は、そうだったんだぁ。とそこで始めて自分が先生から嫌われていることを自覚した。残りの3人はどうなの?とも思ったが、明らかに、私もマコちゃんもキムラも先生から嫌われていた。私は反抗的な作文を書いたことで。マコちゃんは何をするにも遅くて、先生はあからさまに面倒くさそうな顔をしたし、キムラは授業中、手を上げっぱなしというくらい積極的に手を挙げていたが、先生からほぼ無視されていた。今思えば、先生はキムラ以外の子どもにも発言の機会を与えたかったということなのだろうけど、その時はそれで納得した。

 

いろんな事を班で競っていたのだが、漢字の小テストでも、マラソンでもマコちゃんのせいで私達の班が勝つことはなかった。キムラはそれが許せないらしく、よくマコちゃんを虐めていた。いつだかは、漢字の特訓だと言ってマコちゃんに強制的に漢字の練習をさせていた。

「こっからここまで書けよ!」

素直なマコちゃんは手垢で真っ黒になったジャポニカ学習帳にきったない字で言われるまま何度も何度も漢字を書いた。

「書けよ!」

「もう1回書けよ!」

結果、その回の漢字テストでマコちゃんは60点をとった。凄い、凄い、と私達は盛り上がった。いつも0点か頑張っても20点のマコちゃんでもやれば出来るということが分かった瞬間だった。


そのあたりからキムラはイヤな奴だけど、先生から虐められている者同士ということで、私は妙な連帯感を持つようになっていた。

 

ある時、卒業記念の壁画の実行委員を決めることになった。たしか、各クラスで2名選出しなければならかった。

 

「立候補する人はいますか?」

しーん…

私達のクラスは先生の恐怖政治のせいで閉鎖的な雰囲気だった。どんな話し合いでもしーんとしていた。それを先生は、何か意見はないの?全く今の子供は覇気がない、あんた達は死んだ魚の目をしているなどと言うのだが、そんな子供にしたのは先生、あんただよと言いたかった。

 

「それでは誰か推薦してください」

早速、キムラが

「ヤマグチ君がいいと思います」

と言った。ああ。マコちゃんは絵が上手いからいいかもしれないと私は思った。少しハードルは高いかもしれないけど、きっと出来るはず…

先生が口を挟んだ。

「あ~のねえ!面白半分で決めないでくださいよ。ずっーと残るあんた方の卒業記念制作なんだからね。」

結局、他に5~6人の絵が上手かったり、人気者だったりが推薦され、投票で決めることになった。マコちゃんは残念ながら2票しか票が集まらなかった。

 

実行委員が決まった所で、座っていた先生が立ち上がった。

「はい。いいですか~。残念です。大事な実行委員を決めるのにふざけて投票した人がいます。マコトに投票した人は立ちなさい。」

 

うわぁぁぁ、と思った。私はマコちゃんに投票した。普通に考えるとあとの残りの1票は推薦したキムラだろう。私はのろのろと立ち上がった。残りの一人であろう、キムラはとうとう最後まで白状しなかった。

 

「どういうつもりでマコトに投票したのか言いなさい。」

「…ヤマグチ君は絵が上手だからです…」

「だからってやれることとやれないことがあんでしょ。人を面白がるんじゃないよ。どうなのよ?」

「…マコちゃんはやれば出来るし、他の実行委員と協力すれば出来ると思いました…」

もうビビって声が震えて大きな声で喋れなかった。

「きこえないよ!あんた、その舌っ足らずの喋り方やめなさいよ。かわい子ちゃんぶってんの?」

決してかわい子ちゃんぶっているわけではなかった。ビビって上手く喋れないし、そもそも私はどういう訳か甘ったるい喋り方になってしまい、今でもちょっとしたコンプレックスなのだ。

先生の怒りがヒートアップし、投票とは関係のないことで私を怒っている時、立たされたままチラっとキムラを見た。キムラはじいーっと前を向いていて、何を思っているのか分からなかった。

マコちゃんが傷ついていないかと思い、マコちゃんを見た。マコちゃんはいつものように爪を噛んでいた。自分の事で揉めていると分かっていないんだと思ったら、少し救われたような気持ちになった。

 

その後のことはあまり覚えてない。色んなやりとりがあったのだとは思うが、先生に怒鳴られまくった印象ばかり残っていてまるで覚えていない。

 

その後、マコちゃんの休みが続いて、いつの間にかマコちゃんは学校を辞めていた。先生から私達には何の説明もなかった。私はマコちゃんがどうしたのか先生に聞きたかったのだが、とうとう聞く勇気がなかった。

 

キムラは見事中学受験に合格した。地元の中学校のすぐ前に住んでいたキムラが賢そうな帽子を被って帰宅するところを時々校舎から見かけた。

 

何十年ぶりだろう、卒業アルバムを開けてみた。そこにはマコちゃんの姿も名前もなかった。まるで始めからマコちゃんなどいなかったみたいに。


先生は20年くらい前にガンで亡くなられたことを噂で聞いた。

 

私達のクラスが同窓会を開くことはただの一度もなかった。マコちゃんも、キムラもいいオッサンになっているはずだ。考えてみれば、小6の段階であの二人は既にオッサンぽかった。現在の姿を想像すると少し可笑しい。幸せに暮らしていてほしい思う。再会してあの頃の話をしてみたいものだと思った。その時は出世しているであろう、キムラに奢ってもらおうと思う。