台風が来る度に幼なじみのみいちゃんを思い出してしまう。
地元ではないにもかかわらず、縁あって今も同じ町に住む親友のみいちゃんとは小学生からの付き合いになる。改めて数えると恐ろしく長い付き合いだと気がつく。
みいちゃんは、当時夏休みに外で遊びたい小学生を苦しめていた“光化学スモッグ注意報”をまるで無視して手渡りの鍛錬を重ねる強者だったので、暇に耐えられずチョットだけ校庭に流しに行く私と意気投合したのだった。
中学生になると私達は、グッとくる歌を貸レコード屋で探し、カセットテープにダビングしたり、(平成生まれの皆様、我慢してついて来て💦)歌詞をノートに書き写したりして、「チョー、カンドー♡」と黄色い声で叫ぶ事で満足していた。
その他、オフコース、ユーミンなどの歌本を入手するとピアノで弾いてみて、「チョー、カンドー♡」というのもしきりにやっていた。
ある日、みいちゃんが大人の雰囲気のチョーカンドーモノを発掘し、そのピアノ曲集を買いに行くというので、私も一緒に買いに行く約束をした。
その日がまさに台風が直撃した日だった。
でも、光化学スモッグを制覇したみいちゃんが台風ごときに及び腰になるはずも無かった。私もビビってると思われるのは心外なので、「バカじゃないの!」という母親の声を尻目に自転車で家を出た。
あの時、生命を脅かす程の悪天候にもかかわらず、約束通り集合した私達が、さらなる信頼と硬い友情の絆で結ばれた事は間違いない。
そして、自然の脅威を舐めきったおバカ女子中学生は、暴風雨の中、自転車に片手傘で出発したのだった。
すぐさまみいちゃんの傘は壊れ、それを見た私は傘を畳んだ。自転車は乗ってられないので押して歩いた。重かった。それでも我々は怯むことなく、命がけの旅を続ける。
「大丈夫かー?!」
「はいっ!」
「隊長!前に進めません!」
「諦めるなー!」
いつしか私達は興奮のあまり、川口浩の探検隊となり、住宅街というジャングルを突き進んだ。
ひと駅先の本屋にたどり着いた時にはパンツまでビッチョリになっていた。
本屋での会話はあまり憶えていない。とにかく人っ子一人いない店内でお互い1冊ずつ本を選び、本屋を出た。
復路はもっとキツかった。川口浩はもはやなりを潜め、ただ黙って自転車を押した。自分達の町内に入った時は長い長い旅から帰ったかのように感じた。
私達はあっけなく「バイバイ」して家に帰った。多分この暴風雨の中外出した後悔と疲れで一刻も早く暖かく安全な家に帰りたかったのだと思う。
何事も無く戻って来られて本当に良かった。
ちなみに、このチョーカンドーなエピソードは おばさんになったみいちゃんは殆ど憶えていなかった。憶えているのは、私が買ったばかりの本をビチョビチョにしているのを見て、バカかと思ったという事だけだった。みいちゃんの本はビニール袋でしっかりガードしていたので無事だった。
今でも私の本棚にはすっかり茶ばんでしまったが、あの時買った雨を吸い込んでパンパンにふやけた「ポール・モーリアベストコレクション」が幅を取っている。