雨のち晴れ

子育て・考えたことやたわいのない日常を綴った日記です

白雪姫の変貌

今日はあまりいい話ではない。Yちゃんの話をしようと思う。

 

私は今日、早々にも準備のよろしい事で、父から年賀状を印刷してほしいとの要望があり、実家に行ってきたのだが、そこで母とYちゃんの話になったのだった。

 

Yちゃんは私の小中学校の同級生で、今は付き合いはないのだけど、母親同士が仲良しなので、時々母からYちゃんの近況を耳にする。

 

Yちゃんは、ちいさい頃からお人形さんのように可愛くて、生き物が大好きな優しい子だった。おとなしくて絵を描くのが上手だった。動物キャラのふんわりとしたタッチのイラストをよく描いていた。

 

一方、Yちゃんのお母さんは、活発な明るい人で、合唱や卓球、山登りなど、趣味の多い人だ。社宅から越してきたばかりの母を色々な場に誘ってくれたようで、母は「Yちゃんのお母さんが誘ってくれなかったら、友だちがいなかったわ。」と言っている。

 

 小4の時、女子の仲良しグループで、ひと駅先のデパートにオープンしたばかりのサーティワンのアイスを食べに行こうという話で盛り上がり、おこずかいを持って集合した。

皆でウキウキと歩いていたら、いきなり、車の中のおじさんから「おーいっ!」と怒鳴られて、皆、びくっと凍り付いて立ち止まった。よく見たらそれはYちゃんのお父さんで、お父さんは子供だけでお金を持ってデパートに行くなんてとんでもないと、車でYちゃんを連れ戻しに来たのだった。

Yちゃんは蚊の鳴くような声で「…私、帰るね…」と言って車に乗り込んでいった。

Yちゃんはどんだけ怒られるのだろう。問題になって、うちらも親に怒られるんじゃないか、などと話しながら食べたチョコミントアイスの味なんてもう忘れてしまった。

 

Yちゃんは中3の時に、ある難病になり、暫く学校を休んでいた。時期的に進路が心配されたが、もともと真面目に勉強していたので、私立の女子高に推薦で入学することができた。

おばさんは体力のないYちゃんの為に、高校の3年間、片道30分、行きも帰りも車で送迎をした。

 

Yちゃんは高校卒業後、今もずっと家で生活している。体調には波があり、調子の良い時は短い時間だけのバイトをしたり、イラストを描いて、インターネットでおこずかいを稼いでいるということは聞いていた。

 

20年位前、帰宅中、最寄り駅でばったりYちゃんに会い、途中まで一緒に歩いたことがある。Yちゃんは、最近体調が良いので、今日は本屋さんに行ってきたのだと微笑んだ。

おそらく殆ど外に出ないのだろう。元々の色白美人に拍車がかかり、白雪姫かと思うほど肌が白かった。

 

今日、Yちゃんの様子を聞いて、私は耳を疑った。

 

最近のYちゃんは、昼と夜がすっかり入れ替わった生活をしている。そして、ささいな事に腹をたててはおばさんに暴言を吐きまくっているというのだった。

 

私とおばさんとは、おばさんの以前の仕事の関係で年賀状のやりとりをしている。そういえば、一言添えられた文が、なんだか妙にしんみりしていたのを思い出した。

 

おばさんは、以前はよく自宅に母を含む何人かのお友達を呼んで茶話会を楽しんでいたのだが、最近ではそれもすっかりご無沙汰になってしまったそうだ。

 

 それというのも、魚の飼育にはまってるYちゃんが、家の中を水槽だらけにしまっていて、とても人を呼べる状態ではないというのだった。

 

もともと、生き物が好きな子だったので、それくらいは良いではないかと思ったのだが、水槽の数が常識の範囲を超えているというのだ。玄関も廊下もダイニングもリビングも水槽だらけなのだそうだ。いったい、どんだけなのだろうか。

 

 Yちゃんは 昼過ぎに起き出して、深夜に魚の世話をしているらしい。

 

そして、おばさんは、毎日のように、「家事もろくにやらずにいつも遊び歩いている」と、定年退職してずっと家にいる夫と、難病を抱え、ずっと家にいる50近い娘になじられているのだった。

 

 誤解のないよう、付け加えると、おばさんは家事や育児を放棄して遊び歩くような人ではない。子供の頃お邪魔した時は、家はきちんと掃除してあり、インテリアもセンスがありおしゃれだった。

おじいちゃんもおばあちゃんも献身的に介護し、看取った。

あえて言うならば、おばさんももう後期高齢者だ。家事が辛くなってきたとしても不思議ではないだろう。それを家事もろくにしないとは、あまりに酷い言い方ではないか…

 

この前、母達で旅行に行ったのだが、おばさんはおじさんとYちゃんに「二度と帰ってくんな!」と言われて出てきたという。

 

 そんなふうに言われた人が、どういう気持ちでいるのか、同じ境遇の私には手に取るようにわかる。おばさんの不幸を思うと、いたたまれないし、やるせないし、息がつまるような気分だ。

 

この話を聞いた時、始めはあの優しい、白雪姫のようなYちゃんの話とは思えず、とても信じられなかった。Yちゃん、いったい、どうしちゃったんだろう。

そうだ、あのお父さん…

 

今にして思えば、あのお父さんは、完全なモラ夫だ。あのお父さんと一日中家にいるYちゃんはモラが移ってしまったのだろうか。あるいは、モラハラ体質は遺伝なのか。

 

全く。ハラスメント体質の人間はどれだけ周囲の人間を不幸にすれば気が済むのだろう。

 

モラハラというのは、本当に治らないのだろうか。いや、私はそうは思いたくない。

 だって私は子供の頃の、優しくて、素直で、生き物好きのYちゃんを知っている。

 中学生になっても、人の悪口を言っているところなんて見た事がないYちゃん。

 

Yちゃんには、第3者の精神的な助けが必要だと母に言ったら、母は、私達もそれは分かっていると言った。すんなり精神科に行かないか…

 

もう、言葉がない。

 

そのあと暫く2人で黙り込むしかなかった。