玄関から声が聞こえる。
「ほら、ちーはいいの?ちーしてきなさい。ババは夜は開けてやれないよ。ほうら。ちーしてきなさい、ちーはいいの?」
そんなやり取りだ。同時に、年をとったマルチーズが尻を押されてぴょこんと出てきた。
「あのう…すみません。」
私は思い切って声を掛けた。
「はい、はい、どちらさんでしょう。」
中から出てきたのは、ヒステリーおばさんでも騒音おばさんでもなかった。お婆さんだった。それも90歳に手が届きそうな、小さくて可愛い、マルチーズのようなおばあちゃんだった。
ここで、私は公園糞まみれ事件の背景を理解した。
「子供が間違えて、お庭にモノを投げてしまったので少し探させて頂けませんか?」
「はい、はい。どうぞ。うちはねぇ、よくサッカーボールが入っちゃってねぇ。どうぞ入って下さい。」
しばらく探したが見つからない。おばあちゃんが聞いてきた。
「どんなサッカーボールを落としたの?」
「(困ったな…)いいえ。お菓子の入れ物のようなんですけどね…(クルシ~💦)」
最近、すっかり日が短くなった。6時前だというのにもう真っ暗だ。
「ちょっと待っててちょうだいよ。懐中電灯をもってくるからね~」
おばあちゃんが壁伝いに玄関から家の中に入って行ったその時、玄関横の植木鉢の前に転がっているものは…プラスチックのラムネの入れ物ではないか。
「ねえ!ねえ、これじゃない?」
「あ、コレだ!」
…見つかった!…
おばあちゃんが懐中電灯を持って出てきた。
「それでどんなサッカーボールなの。ぼく?」
「あ!今、見つかりました。暗い中、すみませんでした。」
「あら、よかったねぇ。」
「ありがとうございました。」
三男にもペコリと頭をさげさせた。
そそくさと木戸を閉めて私達は退散した。
…助かった…
ラムネの中は空っぽだった。きっと落ちた衝撃で蓋が外れてしまったのだろう。それはそれで問題なのだが、あの様子ならば子供のオシッコだろうと犬のオシッコだろうと大差はないだろう。
消耗した…なんだって私が犯罪がバレる前の犯人みたいな心理にならなければならないのだろう。では本当の事を言えばよかったのか?
『この度はうちの息子がお宅様のお庭にオシッコの入ったお菓子の容器をぶち込みまして申し訳ございませんでした…と言いますのもお宅様のワンちゃんがいつも公園でウンチをしてますでしょう。それが原因でして。それって如何なものでしょうか?衛生的にもよろしくないのでは…』
って何が言いたいのか分からないではないか。
おばあちゃんに犬の糞についてとやかく言う気持ちはすっかり萎えてしまった。
困ったおばあちゃんだが、文句を言ってももう、どうにもならないだろう。
親切にして頂きありがとうございました。
どうぞお達者で。
そしてこちらにも困った三男が…
「やっていい事と悪い事を考えろ」
しでかしちゃった子に親が言う代名詞。疲れと脱力感とで、そんな事しか言えなかった。
今回は大事にならずに運が良かったのかもしれない。相手によっては警察沙汰だ。そう思う事にしよう。
あと、子供はおねえさんとおばさんの違いは分かるのに、おばさんとおばあちゃんの差が分からない。それが軽くショックだった。
モヤモヤはまだとれない。
なんだかな~。